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東京地方裁判所 昭和42年(ワ)4416号 判決

第一事件原告・第二事件被告

総評全国金属労働組合東京地方本部

大興電機支部

右代表者

村上辰彦

右訴訟代理人

後藤昌次郎

第一事件被告

石原貞雄

外三五名

第二事件原告・選定当事者

小田切利夫

選定者

石川一己

外二五七名

第一事件被告らおよび第二事件原告訴訟代理人

滝内礼作

主文

一  第一事件被告らは各自原告に対し、別紙第一目録請求金額記載の金員およびこれに対する昭和四一年五月二八日から同年七月五日まで日歩二銭九厘、同年同月六日から完済まで日歩四銭の各割合による金員の支払をせよ。

二  第二事件原告の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、第一事件、第二事件を通じ、全部第一事件被告らおよび第二事件原告の負担とする。

四  第一項に限り仮に執行することができる。

事実《省略》

理由

一(第一事件について)

株式会社大興電機製作所本社・東京工場・音響機器事業部の従業員を以て組織する労働組合である原告が、昭和四一年五月一〇日から同年同月二二日までの間、右会社に対し賃上げ要求に関して重点部分ストライキを行つたこと、原告が当時組合員として右ストライキに参加した被告らに対し、同年同月二八日、その賃金カット分にあたる別紙第一目録請求金額欄記載の各金員を交付したことは当事者間に争いがない。

そして、〈証拠〉とによれば、原告はストライキに参加した組合員の賃金カット分を補償するために東京労働金庫から資金を借り入れて、これを被告らを含むストライキ参加の組合員に貸付けたものであること、右貸付にあたつて、その弁済期は同年七月五日、弁済期までの利息の割合は日歩二銭九厘、期限後の損害金の割合は日歩四銭と定められたこと、を認めることができ、この認定の妨げとなる証拠はない。

被告らは、被告らに対し右の貸付金の返還を請求することは、ストライキに参加した被告らにのみ不利益を負わせる結果となるから許されない旨を主張する。しかし、ストライキに参加した組合員が賃金カット等による経済的不利益を蒙ることがあるのは当然であつて、本件貸付金はその不利益を補償する趣旨でなされたものと解せられる。そして、〈証拠〉によれば、被告ら以外にも同様の貸付金を支給された組合員は多数いたが、それらの組合員はいずれも原告との約定にしたがつてその借入金を返済したのに、原告組合を脱退して就労した被告らのみがその返済をしないでいることが認められる。この事実からすれば、被告らに対し貸付金の返済を請求することが被告らのみを不公平に取り扱つているものということはできないから、被告らの主張は理由がない。

そうすると、被告らは各自原告に対し原告主張の金員を支払うべき義務があるといわねばならないから、原告の本訴各請求は正当として認容すべきである。

二(第二事件について)

選定者らが被告組合の闘争資金積立規定に基づき被告組合の組合員であつた期間毎月金二〇〇円を被告組合に預託していたこと、選定者らが被告組合の組合員資格を失つたのは、選定者らが自ら被告組合を脱退したことによること、は当事者間に争いがない。

原告は、右の預託金は、組合員が退職、死亡等によつて組合員資格を失つた場合だけでなく、選定者らのように脱退によつて組合員資格を失つた場合にも、預託者に対し返還さるべきものである、と主張する。そして〈証拠〉によると、被告組合の積立金規定はその第七条において「積立金の払戻しは左の各号に規定する場合以外は認めない。」と定め、その第二号において「退職、死亡等の事由により組合員資格を喪失した時」と定めていることが明らかである。この積立金がストライキ等の場合に個々の組合員が受ける経済的不利益をできるだけ補償し、その団結を強固にすることを目的としていることから考えれば、この積立金を返還すべき場合は右の目的と背馳しない限りにおいて認めるように定められていると見るのが合理的であり、右の第七条本文の文言が「場合以外は認めない。」と限定的な表現をとつているのもその意味であると解せられる。したがつて、右の第二号にいう「退職、死亡等の理由」というのは、退職、死亡のほか、昇給、転勤等、組合の団結と特段の関係のない事由を指し、選定者らのように自ら組合を脱退した場合は含まない、と解するのが相当である。

そうすると、選定者らは被告組合に対し積立金の返済を請求しえないというべきであるから、原告の本訴請求は、その余の点につき判断するまでもなく失当である、といわねばならない。

三よつて、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九五条、第八九条、第九三条を、仮執行の宣言につき同法第一九六条を、各適用して主文のとおり判決する。

(秦不二雄)

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